吾輩はヅカオタである。

名前はまだない。

シガレットケースが主人公 ※ネタバレ有

グランドホテルおとぎばなし
「きんいろのシガレットケース」

 

昔々、ベルリンのホテルに泊まっている若者がいました。
彼はハンサムな伯爵でしたが、お金はありませんでした。
伯爵は金色に輝くシガレットケースを持っていました。
その金色のシガレットケースは宿泊客やホテルで働く人々の間で噂になるようなすてきなシガレットケースでした。

 

ある日、ひとりのフロント係がすてきなシガレットケースですねと伯爵に言いました。
伯爵は君に渡るように遺言を書いておくよと笑っていました。
シガレットケースは「伯爵はいいかげんな人だなあ」と思いました。

 

伯爵はお金が必要でした。
友人になった死にかけの男がこれは君の分け前だからとお金を渡そうとしてきます。
願ってやまないお金が手に入ることになったのですが、伯爵はお金を恵んでもらうということを善しとしません。
お金を借りる代わりにシガレットケースを担保として友人に渡しました。
シガレットケースは「少しの間違う人に持たれるのもいいかな」と思いました。

 

その夜、ホテルはいつもより慌ただしい雰囲気でした。
朝になると死にかけている男は悲しい目をして、金色のシガレットケースをポケットにしまいました。
どうやら伯爵は死んだということをシガレットケースも知りました。
シガレットケースは「この人に持ってもらうのもいいかな」と思いました。

 

ホテルを出る前に死にかけの男はひとりのフロント係と話しました。
そのフロント係の子どもがようやく生まれたそうです。
それじゃあ、と死にかけている男はフロント係に金色のシガレットケースをプレゼントしました。
死にかけの男はお祝いのために贈れるようなものはそれしか持っていなかったのでしょう。
フロント係はとても感激していました。
宿泊客やホテルで働く人々の間で噂になるようなすてきなシガレットケースが自分のものになったのですから。
シガレットケースは「この人が持ち主になるのか。思ってもみなかったことがおこるんだな」と思いました。


昔々、ベルリンにあったホテルのお話です。

今は誰が金色のシガレットケースを持っているのでしょうか。

昔々、ベルリンにあったホテルのお話です。
そのホテルはグランド・ホテルといったそうな。